文学国語
文学国語
ここでは「文学国語」について書いていきます。
※参考
目次
特徴
共通必履修科目を履修した上で履修することが想定されています。「論理国語」と「文学国語」に分けていることから、文学的な文章を中心に扱うことが読み取れます。また配当時間表から、読むことに時間が大きく割かれていることが分かります。「文学国語」の「1性格」に書いてあるように、「感性・情緒の側面の力を育成する」ことを目指していると捉えられます。
目標から読み取れること
言葉による見方・考え方を働かせ、言語活動を通して、国語で的確に理解し効果的に表現する資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1)生涯にわたる社会生活に必要な国語の知識や技能を身に付けるとともに、我が国の言語文化に対する理解を深めることができるようにする。
(2)深く共感したり豊かに想像したりする力を伸ばすとともに、創造的に考える力を養い、他者との関わりの中で伝え合う力を高め、自分の思いや考えを広げたり深めたりすることができるようにする。
(3)言葉がもつ価値への認識を深めるとともに、生涯にわたって読書に親しみ自己を向上させ、我が国の言語文化の担い手としての自覚を深め、言葉を通して他者や社会に関わろうとする態度を養う。
(高等学校指導要領(平成30年告示)解説 国語編 178・179ページ)
※以下引用は「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 国語編」による。
※なお、下線は馬締が施したものである。以下同様。
ここから読み取れることとして、(1)より「生涯にわたる社会生活」で必要な国語の力が挙げられます。(2)からは「共感」「想像」「創造」の力を養い、他者と関わっていくことが読み取ることができます。(3)からは「言葉が持つ価値」の「認識を深める」、「読書」などに着目されます。
P179以降に書いてある内容から、キーワードの理解をしていきましょう。まず(1)の「生涯にわたる社会生活」です。学習指導要領には、高校生の日常生活が中心ではあるが、高校を卒業して他者と関わりながら社会生活を送る上で必要となる範囲を指しています。ここの定義は「論理国語」の時と同じように捉えておいて良いでしょう。
(2)の「共感」「創造」はこの科目を通して「力を伸ばす」ことを目標としています。これまでの学校での学習や日常生活で、能力が0ということはないと考えられるので、「力を伸ばす」と考えるものと思われます。「創造」は、他者の考えや自分の考えを比較検討することで高めていくようです。この「創造」は他者との関わりが必要であり、その中で「伝え合う力」を伸ばすことにも狙いがあります。
(3)の「言葉が持つ価値」を知り、「認識を深める」ことに繋げていく狙いがあります。文学的な文章には美しい日本語の表現や言葉の深みを読み取ることができるものがあります。また、「読書」を通して自己の向上をはかろうともしています。一人では読むのが難しい小説ではなく、気軽に読めるような小説を始め、今なお、幅広く現代の文学は広がりを見せているので、読書に繋げていけると良いでしょう。
内容
〔知識及び技能〕の内容は、「(1)言葉の特徴や使い方に関する事項」、「(2)我が国の言語文化に関する事項」の2事項となっています。
「(1)言葉の特徴や使い方に関する事項」
(1)言葉の特徴や使い方に関する次の事項を身に付けることができるように指導する。
ア 言葉には、想像や心情を豊かにする働きがあることを理解すること。
イ 情景の豊かさや心情の機微を表す語句の量を増し、文章の中で使うことを通して、語感を磨き語彙を豊かにすること。
ウ 文学的な文章やそれに関する文章の種類などについて理解を深めること。
エ 文学的な文章における文体の特徴や修辞などの表現の技法について、体系的に理解し使うこと。
(181ページ)
事項アでは「言葉」の説明をしています。「論理国語」の時にも言葉の説明がありましたが、定義が大きく異なっています。文学を扱う文章に出てくる言葉の説明としては、オーソドックな定義になっています。
事項イでは「語彙」に関するものとなっています。語句の量を増やすだけでなく、語感を磨くことが目的となっています。語感を磨くことまで目標にすると相当量の文学作品に丁寧に触れる必要が出てきそうです。
事項ウに関しては、語句ではなく、文章の種類や特徴に焦点が当たっています。構成の知識も必要という風に受け取ることができます。
事項エでは、文体の特徴や修辞などについて触れられています。文学的文章は小説だけではなく、詩歌なども含まれると想定されますので、文体や修辞について学ぶ必要が出てくると考えられます。
言葉の運用に関しては、これまでの学習の取り組みと大きく変わることはないように思います。ただ読んで理解するだけではなく、言葉について着目することを忘れないようにしましょう。
(2)我が国の言語文化に関する事項
(2)我が国の言語文化に関する次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 文学的な文章を読むことを通して、我が国の言語文化の特質について理解を深めること。
イ 人間、社会、自然などに対するものの見方、感じ方、考え方を豊かにする読書の意義と効用について理解を深めること。
(185ページ)
事項アでは「言語文化の特質」とあります。同じ日本語であったとしても、時代によって使い方が大きく異なります。特に近現代文とされている範囲であっても、時代の幅が広いので、特質について触れることができるでしょう。
事項イは、「読書の意義と効用」ということですので、文学作品を授業で触れながら、その世界や奥行きを感じ取って、読書体験に繋げていくというものに当たるかと思います。近現代文学について触れるのは理想ですが、現代の生徒には難しいところがあると思われます。比較的現在に近い作品を扱い、そこを入り口に広げていけるとよいでしょう。
[思考力、判断力、表現力等]
A 書くこと
(1)書くことに関する次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 文学的な文章を書くために、選んだ題材に応じて情報を収集、整理して、表現したいことを明確にすること。
イ 読み手の関心が得られるよう、文章の構成や展開を工夫すること。
ウ 文体の特徴や修辞の働きなどを考慮して、読み手を引き付ける独創的な文章になるよう工夫すること。
エ 文章の構成や展開、表現の仕方などについて、伝えたいことや感じてもらいたいことが伝わるように書かれているかなどを吟味して、文章全体を整えたり、読み手からの助言などを踏まえて、自分の文章の特長や課題を捉え直したりすること。
(2)(1)に示す事項については、例えば、次のような言語活動を通して指導するものとする。
ア 自由に発想したり論評を参考にしたりして、小説や詩歌などを創作し、批評し合う活動。
イ 登場人物の心情や情景の描写を、文体や表現の技法等に注意して書き換え、その際に工夫したことなどを話し合ったり、文章にまとめたりする活動。
ウ 古典を題材として小説を書くなど、翻案作品を創作する活動。
エ グループで同じ題材を書き継いで一つの作品をつくるなど、共同で作品制作に取り組む活動。
(P187)
(1)アは書くための準備段階と言えそうです。選んだ題材の情報収集は、物語の内容だけでなく、作者の生い立ちや書かれた背景など物語以外のところからも情報を収集することができそうです。その作業を行った上で、表現したいことを明確にしておきます。
次に(1)イの「文章の構成や展開」を考えていくところに入っていきます。さらに、その文章は(1)ウ「独創的な文章」になるように工夫します。この「独創的」という部分をどのように捉えるかは、各学校の解釈の余地がありそうです。基本的な文章を書けるようになってから工夫を凝らすという意味の「独創的」であってほしいところですが、そこまで指導するのが大変な場合は、書き方が変わっているという意味の「独創的」になってしまうかもしれません。
そして、(1)エで、読み手からの意見をもらって、自分の文章の特長を知ることにつながっていきます。これは、必ずしも読み手が教師である必要性はなさそうです。グループワークや匿名の状態で読み合いをして、フィードバックするという形でも良いと思われます。
さて、(2)は具体的な活動について書かれています。文学国語では「自由に発想」(ア)することが初めに来ています。まずは、物語を捉えるときの想像力だけでなく、「創造力」も持ちましょうということだと思われます。さらに、物語の文体や表現技法に注意して「書き換え」、「文章にまとめたりする活動」(イ)が挙げられています。この箇所が(1)ウの「独創的な文章」につながると考えられます
また、「古典を題材」(ウ)にすることも想定されています。ここから、古典的な教材であっても、物語文などであれば、古典を扱ってもよいと読み取ることが出来るでしょう。
最後に「共同で作品制作に取り組む活動」(エ)とあります。一人で活動するだけでなく、「協働」を取り入れていきましょうということが読み取れます。
B 読むこと
(1)読むことに関する次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 文章の種類を踏まえて、内容や構成、展開、描写の仕方などを的確に捉えること。
イ 語り手の視点や場面の設定の仕方、表現の特色について評価することを通して、内容を解釈すること。
ウ 他の作品と比較するなどして、文体の特徴や効果について考察すること。
エ 文章の構成や展開、表現の仕方を踏まえ、解釈の多様性について考察すること。
オ 作品に表れているものの見方、感じ方、考え方を捉えるとともに、作品が成立した背景や他の作品などとの関係を踏まえ、作品の解釈を深めること。
カ 作品の内容や解釈を踏まえ、人間、社会、自然などに対するものの見方、感じ方、考え方を深めること。
キ 設定した題材に関連する複数の作品などを基に、自分のものの見方、感じ方、考え方を深めること。
(2)(1)に示す事項については、例えば、次のような言語活動を通して指導するものとする。
ア 作品の内容や形式について、書評を書いたり、自分の解釈や見解を基に議論したりする活動。
イ 作品の内容や形式に対する評価について、評論や解説を参考にしながら、論述したり討論したりする活動。
ウ 小説を、脚本や絵本などの他の形式の作品に書き換える活動。
エ 演劇や映画の作品と基になった作品とを比較して、批評文や紹介文などをまとめる活動。
オ テーマを立てて詩文を集め、アンソロジーを作成して発表し合い、互いに批評する活動。
カ 作品に関連のある事柄について様々な資料を調べ、その成果を発表したり短い論文などにまとめたりする活動。
(P194・195)
今回は(1)の下線を引いたところを繋いでみたいと思います。
「内容や構成、展開、描写の仕方」
「内容を解釈」
「文体の特徴や効果」
「解釈の多様性」
「作品の解釈を深める」
「人間、社会、自然などに対するものの見方、感じ方、考え方を深める」
「自分のものの見方、感じ方、考え方を深める」
文学を理解していく手順とほぼ一致していると思われます。指導の手順として参考に出来る学校も多いと思われます。
続いて(2)の活動について取り上げてみます。
「議論」
「論述したり討論したり」
「他の形式の作品に書き換える活動」
「まとめる活動」
「テーマを立てて詩文を集め」
「短い論文などにまとめたりする活動」
最初は「議論」や「討論」を通して、自身の考えや他者の考えを認識する活動をします。その後、書く活動を推し進めていくという感じです。書く活動に関しては、全てを行うというよりも、取り上げた教材に適した活動を選んでいくという形になるでしょう。
内容の取り扱い (3)教材について
内容の取り扱いについて注目すべき箇所を取り上げておきます。
ア 内容の[思考力、判断力、表現力等]の「B読むこと」の教材は、近代以降の文学的な文章とすること。また、必要に応じて、翻訳の文章、古典における文学的な文章、近代以降の文語文、演劇や映画の作品及び文学などについての評論文などを用いることができること。
(P206)
ここでの「近代以降の文学的な文章」は、学習指導要領で定義されています。
近代以降の文学的な文章とは、明治時代以降に書かれた、小説、詩歌、随筆、戯曲などの文学的な文章
(P207)
また「古典における文学的な文章」も定義されています。
古典における文学的な文章については、例えば、古典としての古文には、和歌、俳諧、作り物語、歌物語、歴史物語、随筆、日記、説話、仮名草子、浮世草子、能、狂言、人形浄瑠璃、歌舞伎など、漢文には、史伝、辞賦、古体詩、近体詩、寓話、説話、小説など
(P207)
以上のことから、基本的には「近代以降の文学的な文章」を中心に扱うものの、その教材の内容理解のために、必要があれば古典における文学的な文章を用いることができると解釈されるでしょう。
この点から、これまでの国語の教科書でよく取り上げられていた『羅生門』で、『今昔物語集』を取り上げたのと同じように解釈することができるでしょう。
さいごに
この「文学国語」は履修しない学校が多いのではないかと話題になった時期がありました。1年生で「現代の国語」「言語文化」は必履修科目なので学ぶことになるとして、2年次以降どうするかという問題でした。大学入試を控えた学校の場合、センター試験などで「評論文」と「古典」が必要なことを見据えて、「論理国語」と「古典探究」の設定をすると考えられていました。
しかし、大修館のアンケートではそのような選択が少ないと言うことが分かっています。
ただし、総合学科などで単位に余裕がない場合は、このようなアンケート結果の履修が出来ない場合があり、文学国語は希望者のみとなるパターンも出てきそうです。
古典的な文章を全く扱えないわけではありませんし、複合的な問題を視野に入れるとすれば、この科目の果たす役目は大きくなりそうです。
R4年度以降のカリキュラムが出れば、各学校がどのように考えているかが見えてきそうです。
まとめ
①「書くこと」「読むこと」の項目が詳しく、能動的な学習を取り入れた活動が想定しやすい。
②近現代の文章だけでなく、古典的な文章の余地がある。
③個人だけでなく、協働作業をいれる余地が十分にある。