国語表現

国語表現

 

ここでは「国語表現」について書いていきます。

※本記事は非常に長くなっております。

 

※参考

「高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説 国語編」

 

 

特徴

「古典探究」は「論理国語」や「文学国語」と同じく、「現代の国語」「言語文化」を修得した上で学習する科目となっています。「論理国語」は「現代の国語」「文学国語」と、「古典探究」は「言語文化」の上位科目としての位置づけがありましたが、「国語表現」は「論理国語」と「言語文化」のそれぞれの特徴を持ちつつ、新しい視点に立っていると考えられます。

 

学習指導要領ではこれからの社会を生きていくために必要な力として「コミュニケーション能力」を挙げています。自らの思いや考えを伝えるだけでなく、相手の立場に立ったり、理解したりすることを見据えています。

 



目標から読み取られること

 

言葉による見方・考え方を働かせ,言語活動を通して,国語で的確に理解し効果的に表現する資質・能力を次のとおり育成することを目指す。

(1)  実社会に必要な国語の知識や技能を身に付けるようにする。

(2)  論理的に考える力や深く共感したり豊かに想像したりする力を伸ばし,実社会における他者との多様な関わりの中で伝え合う力を高め,自分の思いや考えを広げたり深めたりすることができるようにする

(3)  言葉がもつ価値への認識を深めるとともに,生涯にわたって読書に親しみ自己を

向上させ,我が国の言語文化の担い手としての自覚を深め,言葉を通して他者や社会に関わろうとする態度を養う。

 

引用元「高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説 国語編」p209

(※下線は馬締が施した。以下、引用は断りがなければ「高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説 国語編」による。)

 

「国語表現」とあるので、表現することに重きが置かれているかと思いきや、1つ目は「知識や技能」となっています。ここは大切な観点だと思われます。表現をするためには最低限の知識が必要となります。それらをきちんと習得することを念頭に置いていることは設計として素晴らしいと思います。

 

2つ目から「他者」と「自己」の視点が読み取ることができます。コミュニケーション能力において「他者」との関わり合いは外せません。自身の考えを相手に伝えるだけでなく、相手を理解した上で意思疎通することが考えられます。また、「自分の思いや考えを広げたり深めたり」とあることから、伝えることは一つの手段であり、真の狙いは自己を向上させる」ことにあると考えられます。

 

3つ目は、少し異色の感じがします。表現をすると言うことは、書いたり発表したり表現することを目的とし、読書は他の科目での目標にしてよいように思われます。しかし、この科目の目的は「自己を向上させる」ことにあるので、読書による自己向上を狙っていると考えられます。

 



内容

 

〔知識及び技能〕

 (1) 言葉の特徴や使い方に関する事項

(1)  言葉の特徴や使い方に関する次の事項を身に付けることができるよう指導する。

ア 言葉には,自己と他者の相互理解を深める働きがあることを理解すること。

イ 話し言葉と書き言葉の特徴や役割,表現の特色について理解を深め,伝え合う目的や場面,相手,手段に応じた適切な表現や言葉遣いを理解し,使い分けること

ウ 自分の思いや考えを多彩に表現するために必要な語句の量を増し,話や文章の中で使うことを通して,語感を磨き語彙を豊かにすること。

エ 実用的な文章などの種類や特徴,構成や展開の仕方などについて理解を深めること。

オ 省略や反復などの表現の技法について理解を深め使うこと。

(p212)

 

言葉の認識として「自己と他者の相互理解を深める働きがあること」(ア)を挙げています。この点に関しては小学校5年から中学2年までの内容に、言葉の認識を深める内容があり、それを踏まえて発展させる狙いがあるようです。

 

言葉について

(p30)

 

言葉に関する表現を見ると、今回の「自己と他者の相互理解」に関しては、「国語表現」特有の内容となっています。

 

相手との理解において、参考になる表現があります。

 

表現する際には、自分がプラスイメージで用いた語句であっても、歴史的背景や時代状況や文脈によって、受け手がマイナスイメージを連想することもあることに留意する必要がある。

(p213)

 

このことは、対面でのコミュニケーションだけでなく、SNSなどを通した間接的なコミュニケーションでも起こりうる状況です。生徒に対して明示するのに分かりやすい表現だと思われます。

 


 

「伝え合う目的や場面,相手,手段に応じた適切な表現や言葉遣いを理解し,使い分けること」(イ)は「話し言葉」と「書き言葉」を考えると分かりやすいでしょう。学習指導要領では表現する媒体による違いを挙げて説明しています。「話し言葉」と「書き言葉」のどちらを使う方がよいのか、また、それぞれの媒体に適した表現が何かということを考えるとよいと思われます。

 

ただし、次のような指摘もしています。

 

実社会に目を向けると、話し言葉と書き言葉の接近と融合が進んでおり、その傾向は更に加速していくものと考えられる。

(p214)

 

具体例としてSNSを取り上げ、基本は「書き言葉」であるが、状況によっては「話し言葉」となることを指摘しています。SNSの性格によっても変わりそうな内容ではあるので、生徒の実態に合わせて取り入れておく必要があるでしょう。

 


 

「自分の思いや考えを多彩に表現するために必要な語句」(ウ)に関しては参考になる具体例が書かれています。

 

自分の思いや考えを多彩に表現するために必要な語句としては,伝統的に用いられてきた数々の慣用的表現や,自分の思いや考えを形成するに至った事象を具体的に描写する語句などが考えられる。例えば,悲しい思いの表現には,「悲しい」,「哀れむ」,「悲嘆」,「ほろり」などの,多彩な品詞や語種にわたる語や,「胸がふさがる」,「断腸の思い」,「涙にむせぶ」,「血の涙」などの慣用句があり,「悲しみ」という名詞も,「悲しみが込み上げる」,「悲しみがあふれる」,「悲しみに暮れる」のように特定の語と結び付くことで表現が広がっている。

(p215)

 

一つの心情や思いを表現する場合でも、複数の語句を使い分けられるようになれるようになることが挙げられています。これは意識して練習しないと自分が使いやすい語句だけで済ましてしまう現代の言語表現に警鐘を鳴らしているように感じられます。教える側も様々な表現を「知っている」から「使える」状態にスキルアップする必要があるでしょう。

 

 

「実用的な文章などの種類や特徴,構成や展開の仕方」(エ)に関しては、国語の中でよく言われていることです。文章の中身だけでなく、その構成までしっかりと分かるようにしておく必要があります。

 


 

「表現の技法」(オ)については具体的に指摘されています。

 

省略とは,章句を簡潔にして,言外のニュアンス,余韻,暗示を読者に読み取らせる修辞法である。また,反復とは,同一または類似の語句を繰り返す技法である。

省略の仕方は多様であるが,よく用いられるものに,「接続語省略」がある。例えば,ジュリアス・シーザーの「私は来た,見た,征服した」というせりふのように,接続語を省略し,短い言葉で畳みかけることによって,言葉に速さと力強さとを与えるような技法である。

(p217)

 

学習指導要領には、活用すべき表現について具体例が載っていることがあります。今回の省略に関しては、よく分からなかったのですが、この具体例によってよくわかるようになりました。

 


 

(2) 我が国の言語文化に関する事項

(2)  我が国の言語文化に関する次の事項を身に付けることができるよう指導する。

ア 自分の思いや考えを伝える際の言語表現を豊かにする読書の意義と効用について理解を深めること。

(p218)

 

読書に関する表現です。ここは、このままの理解で良いでしょう。

 



〔思考力,判断力,表現力等〕

A 話すこと・聞くこと

(1)  話すこと・聞くことに関する次の事項を身に付けることができるよう指導する。

ア 目的や場に応じて,実社会の問題や自分に関わる事柄の中から話題を決め,他者との多様な交流を想定しながら情報を収集,整理して,伝え合う内容を検討すること。

イ 自分の主張の合理性が伝わるよう,適切な根拠を効果的に用いるとともに,相手の反論を想定して論理の展開を考えるなど,話の構成や展開を工夫すること。

ウ 自分の思いや考えが伝わるよう,具体例を効果的に配置するなど,話の構成や展開を工夫すること。

エ 相手の反応に応じて言葉を選んだり,場の状況に応じて資料や機器を効果的に用いたりするなど,相手の同意や共感が得られるように表現を工夫すること。

オ 論点を明確にして自分の考えと比較しながら聞き,話の内容や構成,論理の展開,表現の仕方を評価するとともに,聞き取った情報を吟味して自分の考えを広げたり深めたりすること

カ 視点を明確にして聞きながら,話の内容に対する共感を伝えたり,相手の思いや考えを引き出したりする工夫をして,自分の思いや考えを広げたり深めたりすること。

キ 互いの主張や論拠を吟味したり,話合いの進行や展開を助けたりするために発言を工夫するなど,考えを広げたり深めたりしながら,話合いの仕方や結論の出し方を工夫すること。

(2) (1)に示す事項については,例えば,次のような言語活動を通して指導するものとする。

ア 聴衆に対してスピーチをしたり,面接の場で自分のことを伝えたり,それらを聞いて批評したりする活動。

イ 他者に連絡したり,紹介や依頼などをするために話をしたり,それらを聞いて批評したりする活動。

ウ 異なる世代の人や初対面の人にインタビューをしたり,報道や記録の映像などを見たり聞いたりしたことをまとめて,発表する活動。

エ 話合いの目的に応じて結論を得たり,多様な考えを引き出したりするための議論や討論を行い,その記録を基に話合いの仕方や結論の出し方について批評する活動。

オ 設定した題材について調べたことを,図表や画像なども用いながら発表資料にまとめ,聴衆に対して説明する活動。

(p219)

 

 

(1)のア~エに関しては、「表現」することを目的としています。オ~キに関しては「自分の考え」を深めることを目的としています。分かりやすい棲み分けとなっています。

 

この項目で気になる点は、アの解説の中で情報伝達の手段や思考の整理法として次のような項目が挙がっています。

 

ICTなどの機器や紙を用いるとともに、ベン図、イメージマップ、XYチャート、マトリックス、ピラミッドチャート、座標軸、フィッシュボーン、熊手図

(p220)

 

 

まず「ICT機器」と「紙」が触れられています。GIGAスクールを意識していることが分かります。

 

続いて思考法や表現法が述べられています。非常に参考になるので、知らない方法があれば調べてみると良いでしょう。

 

また、このような思考ツールを使って、相手に説明するときには次のような点を重要だと述べています。

 

まず相手が何を求めているか、何を知りたがっているかを的確に把握、想定することが重要になる。

(p221)

 

自己完結ではなく、他者との関わりが大切であると考えていることが覗えます。

 

このことは、他の項目でも必ず触れられています。「相手」が存在することを意識しながら取り組んでいける授業を展開する必要があります。

 

(2)に関しては、「批評」がメインとなっています。「発表」や「説明」も触れているので、ここでも「相手」を意識していることが分かります。

 

「話すこと」「聞くこと」は「相手」の存在を非常に意識していることがよく分かります。

 




 

B 書くこと

(1)  書くことに関する次の事項を身に付けることができるよう指導する。

ア 目的や意図に応じて,実社会の問題や自分に関わる事柄の中から適切な題材を決め,情報の組合せなどを工夫して,伝えたいことを明確にすること。

イ 読み手の同意が得られるよう,適切な根拠を効果的に用いるとともに,反論などを想定して論理の展開を考えるなど,文章の構成や展開を工夫すること。

ウ 読み手の共感が得られるよう,適切な具体例を効果的に配置するなど,文章の構成や展開を工夫すること。

エ 自分の考えを明確にし,根拠となる情報を基に的確に説明するなど,表現の仕方を工夫すること。

オ 自分の思いや考えを明確にし,事象を的確に描写したり説明したりするなど,表現の仕方を工夫すること。

カ 読み手に対して自分の思いや考えが効果的に伝わるように書かれているかなどを吟味して,文章全体を整えたり,読み手からの助言などを踏まえて,自分の文章の特長や課題を捉え直したりすること。

 

(2) (1)に示す事項については,例えば,次のような言語活動を通して指導するものとする。

ア 社会的な話題や自己の将来などを題材に,自分の思いや考えについて,文章の種類を選んで書く活動。

イ 文章と図表や画像などを関係付けながら,企画書や報告書などを作成する活動

ウ 説明書や報告書の内容を,目的や読み手に応じて再構成し,広報資料などの別の形式に書き換える活動

エ 紹介,連絡,依頼などの実務的な手紙や電子メールを書く活動

オ 設定した題材について多様な資料を集め,調べたことを整理したり話し合ったりして,自分や集団の意見を提案書などにまとめる活動

カ 異なる世代の人や初対面の人にインタビューをするなどして聞いたことを,報告書などにまとめる活動。

(p231)

 

「書くこと」に関しては、他の科目と同じような内容となっています。「文章の種類」や具体的な形式に関する項目があるので、その点が「国語表現」の特徴と言えるかもしれません。

 




 

さいごに

学習指導要領を見てみると、国語表現の内容が非常に綿密に作り込まれていることが分かります。新設科目ということもあり、重要な科目となると思います。

 

しかし、身近な学校では「国語表現」を設定している学校を聞きません。もしかすると、肝いり政策ではあるけれど、現場ではあまり歓迎されていないかもしれません。

 

今後重要な科目になっていくと思われますので、カリキュラム編成を待って見ることにしたいと思います。

 

 

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