古典探究
古典探究
ここでは「古典探究」について書いていきます。
※参考
目次
特徴
「古典探究」は「論理国語」や「文学国語」と同じく、「現代の国語」「言語文化」を修得した上で学習する科目となっています。内容面としては、「言語文化」の発展版として捉えられます。ただし、必要に応じて古典に関する論理的な文章を扱うこともできます。古典を中心としつつも応用の効く科目となっています。
この科目において、「普遍的な教養」について注目しています。この教養には先人達の蓄積であり、時代を越えた「知」があると考えています。そこから「自分の考え」に目を向けることを想定しています。
目標から読み取られること
言葉による見方・考え方を働かせ、言語活動を通して、国語で的確に理解し効果的に表現する資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1)生涯にわたる社会生活に必要な国語の知識や技能を身に付けるとともに、我が国の伝統的な言語文化に対する理解を深めることができるようにする。
(2)論理的に考える力や深く共感したり豊かに想像したりする力を伸ばし、古典などを通した先人のものの見方、感じ方、考え方との関わりの中で伝え合う力を高め、自分の思いや考えを広げたり深めたりすることができるようにする。
(3)言葉がもつ価値への認識を深めるとともに、生涯にわたって古典に親しみ自己を向上させ、我が国の言語文化の担い手としての自覚を深め、言葉を通して他者や社会に関わろうとする態度を養う。
引用元「高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説 国語編」p246-247
(※下線は馬締が施した。以下、引用は断りがなければ「高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説 国語編」による。)
古典探究においても、「生涯にわたる社会生活」(1)が書かれています。「高校生が日常関わる社会に限らず、現実の社会そのものである実社会を中心としながらも、生涯にわたり他者や社会と関わっていく社会生活全般を指している」(p247)と定義され、「文学国語」で定義されたものと同じです。生きていく上で関わりのある社会と考えて良いでしょう。
また「論理的に考える力や深く共感したり豊かに想像したりする力を伸ばし」(2)とあり、共通必履修科目と同じ設定になっています。しかし、後半では自分の思いや考えを伝えるとありますが、その方法が「古典などを通して」となっており、共通必履修科目よりも発展的になっています。
言葉の価値や認識を深めることは「言語文化」にも登場していましたが、ここでは「生涯にわたって古典に親しみ自己を向上させ」としており、「読書」から「古典」へと変わっています。
「古典に触れるのが高校まで」という認識が多く、それらを解消したい気持ちが読み取られます。まさに古典不要論を唱える人に対する文言のようにも読み取られます。
以上の点を踏まえてまとめると、
生涯にわたって古典に親しみ続け、自己の認識や考えを深めていけるようになる。
このような目標であると押さえておくと良いでしょう。
内容
〔知識及び技能〕
(1) 言葉の特徴や使い方に関する事項
(1) 言葉の特徴や使い方に関する次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 古典に用いられている語句の意味や用法を理解し,古典を読むために必要な語句の量を増すことを通して,語感を磨き語彙を豊かにすること。
イ 古典の作品や文章の種類とその特徴について理解を深めること。
ウ 古典の文の成分の順序や照応,文章の構成や展開の仕方について理解を深めること。
エ 古典の作品や文章に表れている,言葉の響きやリズム,修辞などの表現の特色について理解を深めること。
(p249)
「知識・技能」において確認していきます。まず「古典を読むために必要な語句の量」(ア)とありますので、ある程度の単語量は必要だと言うことです。しかし、ただ単語を覚えるだけでなく、「語感を磨き語彙を豊かにする」(ア)ところまで高める必要があります。
「大学受験のために覚える」だけでは駄目だということです。「語感」を意識できるようにしたいですね。
また「言葉の響きやリズム、修辞などの表現の特色」(エ)について指摘されていますので、単語をただの知識として扱うのは辞めた方が良いでしょう。
言葉の響きは「漢詩の押韻、同じ語句の繰り返し、しりとりの要領で同じ語句を連ねたりすることや、「彷彿」などの双声音や「混沌」などの畳韻語、「悠悠」などの畳語」(p252)と指摘されています。
言葉のリズムは「和歌の五七調や七五調、漢詩の四言、五言、七言などの音数律」、「対句表現」(p252)などを挙げています。
修辞は「枕詞、序詞、掛詞、縁語、句切れ、典故(文学作品が踏まえる故事や先行作品の使用)、押韻、対句、統治、比喩」(p252-253)を挙げています。
かなり具体的に示されており、それぞれの言葉の意味をきちんと理解しておいた方がよいでしょう。
他にも、「文の種類とその特徴」(イ)、「文の成分の順序や照応,文章の構成や展開の仕方」(ウ)とあり、古典を理解する上で本文の内容だけでなく、それ以外の知識も活用する必要があります。
例えば,古文には,和歌,俳諧,作り物語,歌物語,歴史物語,随筆,日記,説話,詩歌などに関する評論,仮名草子,浮世草子,能,狂言,人形浄瑠璃,歌舞伎など,また,漢文には,思想,史伝,辞賦,古体詩,近体詩,寓話,説話,論,説,記,小説など,多種多様な形態がある。
(p250-251)
「文の種類」に関しては上記の指摘がありますので、いわゆる「ジャンル」をしっかりと押さえて指導するようにしないといけないということです。ジャンルは触れる程度という場面をよく見てきたので、注意が必要です。
「文章の構成や展開の仕方」に関する記述もあります。「時系列による叙述、叙景と叙情、頭括型、尾結型、双括型、起承転結など」(p251)とされていて、物語を読むときの型も意識していく必要があります。
(2) 我が国の言語文化に関する事項
(2)我が国の言語文化に関する次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 古典などを読むことを通して,我が国の文化の特質や,我が国の文化と中国など外国の文化との関係について理解を深めること。
イ 古典を読むために必要な文語のきまりや訓読のきまりについて理解を深めること。
ウ 時間の経過による言葉の変化や,古典が現代の言葉の成り立ちにもたらした影響について理解を深めること。
エ 先人のものの見方,感じ方,考え方に親しみ,自分のものの見方,感じ方,考え方を豊かにする読書の意義と効用について理解を深めること。
(p253)
これまで「我が国の文化や特質」(ア)に関する記述はありましたが、これに加えて「外国の文化との関係」(ア)が加わっています。古典の世界では主に「中国」が対象となりますが、江戸時代を考えると他の文化の影響も出てきます。自国と他国の意識が必要になってくるでしょう。
次に「古典を読むために必要な文語のきまりや訓読のきまり」(イ)と出てきますので、いわゆる文法が必要ということです。「読むために必要」という部分をどのように解釈するかで取り扱う範囲が変わりそうです。ただし、「受験のために必要な」という解釈ではいけないということです。
「言葉の変化」(ウ)への言及があります。ここは今の私達が使う言葉に「影響」を与えていることから、現在との繋がりを意識させやすいポイントだと思います。
古典では「先人のもの見方、感じ方、考え方に親し」(エ)むことは言及されやすいですが、そこからさらに「自分のものの見方、感じ方、考え方を豊かにする読書の意義と効用」(エ)となっています。
「読書」に繋がっているところが大きいと思います。古典が高校までで関わりが途切れてしまうのではなく、高校で培った力を活かして読書することまで狙いがあります。そこまでの力を生徒に付けさせられるかは、教員の技量にかかっていると言えそうですね。
〔思考力,判断力,表現力等〕
A 読むこと
(1) 読むことに関する次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 文章の種類を踏まえて,構成や展開などを的確に捉えること。
イ 文章の種類を踏まえて,古典特有の表現に注意して内容を的確に捉えること。
ウ 必要に応じて書き手の考えや目的,意図を捉えて内容を解釈するとともに,文章の構成や展開,表現の特色について評価すること。
エ 作品の成立した背景や他の作品などとの関係を踏まえながら古典などを読み,その内容の解釈を深め,作品の価値について考察すること。
オ 古典の作品や文章について,内容や解釈を自分の知見と結び付け,考えを広げたり深めたりすること。
カ 古典の作品や文章などに表れているものの見方,感じ方,考え方を踏まえ,人間,社会,自然などに対する自分の考えを広げたり深めたりすること。
キ 関心をもった事柄に関連する様々な古典の作品や文章などを基に,自分のものの見方,感じ方,考え方を深めること。
ク 古典の作品や文章を多面的・多角的な視点から評価することを通して,我が国の言語文化について自分の考えを広げたり深めたりすること。
(2) (1)に示す事項については,例えば,次のような言語活動を通して指導するものとする。
ア 古典の作品や文章を読み,その内容や形式などに関して興味をもったことや疑問に感じたことについて,調べて発表したり議論したりする活動。
イ 同じ題材を取り上げた複数の古典の作品や文章を読み比べ,思想や感情などの共通点や相違点について論述したり発表したりする活動。
ウ 古典を読み,その語彙や表現の技法などを参考にして,和歌や俳諧,漢詩を創作したり,体験したことや感じたことを文語で書いたりする活動。
エ 古典の作品について,その内容の解釈を踏まえて朗読する活動。
オ 古典の作品に関連のある事柄について様々な資料を調べ,その成果を発表したり報告書などにまとめたりする活動。
カ 古典の言葉を現代の言葉と比較し,その変遷について社会的背景と関連付けながら古典などを読み,分かったことや考えたことを短い論文などにまとめる活動。
キ 往来物や漢文の名句・名言などを読み,社会生活に役立つ知識の文例を集め,それらの現代における意義や価値などについて随筆などにまとめる活動。
(P257)
読むことの項目は非常に多くなっています。ここが古典を扱う際の中心になると考えてよいでしょう。
まずは「文章の種類を踏まえ」(ア・イ)があります。ただ闇雲に読むのではなく、文章の種類を意識してカリキュラムを編纂しておく必要があります。教科書は様々な文章の種類が載っていますので、偏らずに適切に取り上げるようにしましょう。
次に「内容や解釈を自分の知見と結び付け、考えを広げたり深めたりすること」(オ)、「自分の考えを広げたり深めたりすること」(カ・キ・ク)とあるように、「自分の考え」を意識させ、「広げたり深めたり」できるようにする必要があります。
受験に必要な「古典を解く」能力だけでなく、古典を読んだ上で、自分事にできるかどうかが大切になってきます。学校教育と塾・予備校との大きな違いがこの部分に表れてくると思われます。
さて、次は言語活動に関して見ていきます。下線を引いた部分を取り上げてみます。
調べて発表したり議論したりする活動 (ア)
論述したり発表したりする活動 (イ)
体験したことや感じたことを文語で書いたりする活動 (ウ)
朗読する活動 (エ)
成果を発表したり報告書などにまとめたりする活動 (オ)
短い論文などにまとめる活動 (カ)
随筆などにまとめる活動 (キ)
基本的には「書く」ことが多い活動内容になっています。一部「朗読」や「発表」がありますので、「話す」ことが入るものがあります。読んで終わりではなく、そこからさらに書いて表現することが目標とされています。
これまでの古典の授業を振り返って考えると、かなりレベルの高い活動になるかと思います。どのような活動を考えて取り入れていくかが、教師の力量の見せ所になりそうです。
内容の取扱い
(2)内容の〔思考力、判断力、表現力等〕の「A読むこと」に関する指導については、次の事項に配慮するものとする。
ア 古文及び漢文の両方を取り上げるものとし、一方に偏らないようにすること。
イ 古典を読み深めるため、音読、朗読、暗唱などを取り入れること。
(p270)
内容の取り扱いで注意したいポイントだけを取り上げておきます。
「一方に偏らないようにすること」(ア)とあるように、古文だけ、漢文だけという状態はよくありません。学力水準が厳しい学校の場合、「古文だけ」という選択になることがあるかもしれません。
また「偏らないように」とあるので、古文:漢文=9:1のような状態もよいとはいえないでしょう。漢文を取り入れづらい場合は、「訓読のルール」と「故事成語」あたりの文章を使うことができると思います。「漢詩」もよいですが、短いものの方が、前提知識がたくさん必要になりますので、まとまりのある話の方が扱いやすいでしょう。
さいごに
今回の学習指導要領を読んでみると印象的に載ったのは次の言葉です。
「自分の考え」
「古典を読む」ことが「先人のものの見方や考え方を知る」だけでなく、自分事として捉えて、「自分の考えを深め広げていく」ことに繋げていく必要があるということが分かります。
また、古典では「文章の種類」を意識して読んでいく必要があります。単語や文法だけでなく、作品そのもの、文章そのものがどういうものなのかを意識しながら読み解いていきましょう。
そのためには、教師の力量が試されることになると思います。教員自身の自己研鑽が必要になってくると思います。古典が苦手な人は、まずは指導書から知識を得ることが近道だと思います。しかし、それだけでは不十分です。先行研究を読むことまでは出来なくても、作品に関する本を読んでみてください。新書も多くありますし、高校生向けに知識を得たいのであれば、ビギナーズクラシックも良いでしょう。学校の図書館にあるのであれば全集も参考にしてみましょう。
古典の世界は奥が深いです。その深さを垣間見せ、生徒達が高校を卒業した後も古典に触れていけるように指導していきましょう。