論理国語
論理国語
ここでは「論理国語」について書いていきます。
※参考
目次
特徴
共通必履修科を履修した上で履修することが想定されています。「論理国語」と「文学国語」を分けていることから、論理的な文章や実用的な文章を中心に扱うことが読み取れます。また配当時間表から、書くことに時間が大きく割かれていることが分かり、論理的な文章を読むだけでなく、「論理的に書くこと」も視野に入れられていることが読み取れます。
目標から読み取られること
言葉による見方・考え方を働かせ、言語活動を通して、国語で的確に理解し効果的に表現する資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(1)実社会に必要な国語の知識や技能を身につけるようにする。
(2)論理的、批判的に考える力を伸ばすとともに、創造的に考える力を養い、他者と関わりの中で伝え合う力を高め、自分の思いや考えを広げたり深めたりすることができるようにする。
(3)言葉がもつ価値への認識を深めるとともに、生涯にわたって読書に親しみ自己を向上させ、我が国の言語文化の担い手としての自覚を深め、言葉を通して他者や社会に関わろうとする態度を養う。
(高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 国語編 144・145ページ)
※以下引用は「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 国語編」による。
ここから読み取れることとして、まずは対象が「実社会に必要な国語」ということです。解説によると、実社会とは「私たちが生きる現実の社会そのもの」としています。範囲としては「学校生活」や「社会人として活躍する」生活を指しています。高校だけでなく、その先を見据えた社会と言えます。
次に、(2)に「批判的に考える力」とあります。「批判的に」の部分に説明が加えられています。
「情報と情報の関係などをそのまま受け入れるのではなく、文章や資料を対象化して、その正誤や適否を吟味したり検討したりしながら考える力や、それを踏まえて自分自身の思考を意識的に吟味する力を重視したことを示している」
(45ページ)
論理的な文章であったとしても、取り上げられる情報やその関係性が適切であるのかを吟味する力を養うことになっています。教科書に取り上げられる文章だから全て正しいだろうという姿勢では駄目だということです。
そのような吟味を加え、他者との関わりの中で自己の意見や考えを深めていくことが求められています。「論理国語」では配当時間に「話すこと・聞くこと」の時間が当てられていません。解説を読んでみると、論理的な文章を書き、その上でお互いに批評し合うことで高めていくことが想定されています。
内容
〔知識及び技能〕の内容は,「(1)言葉の特徴や使い方に関する事項」,「(2)情報の扱い方
に関する事項」,「(3)我が国の言語文化に関する事項」の3事項となっています。
「(1)言葉の特徴や使い方に関する事項」
(1)言葉の特徴や使い方に関する次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 言葉には、言葉そのものを認識したり説明したりすることを可能にする働きがあることを理解すること。
イ 論証したり学術的な学習の基礎を学んだりするために必要な語句の量を増し、文章の中で使うことを通して、語感を磨き語彙を豊かにすること。
ウ 文や文章の効果的な組立て方や接続の仕方について理解を深めること。
エ 文章の種類に基づく効果的な段落の構造や論の形式など、文章の構成や展開の仕方について理解を深めること。
(147ページ)
事項(ア)の解説では、「言葉」を強調しています。「言葉そのもの」について考えたり、「言葉そのものを認識したり説明したりすることを可能にする」という働きが強調されています。語句の定義や同義語の微妙な違いなどを考えていくことがあげられています。また、言葉の使われ方や役割などを理解して、説明していくことも取り上げられています。
文章を理解する前提として、言葉そのものにも着眼し、きちんと捉えていきましょうという方針が見て取れます。
事項(イ)では「論証したり学術的な学習の基礎を学んだりするために必要な語句」について述べられています。(ア)では日常語を含む範囲の言葉でしたが、こちらは論理的な文章を読んだり、論理的な文章を書いたりするために必要な語句の量を増やすことに中心が置かれています。
論理的な文章には、日常の話し言葉では使わない言葉が登場しますので、読解のステップとして想定されるべき事項だと思われます。
事項(ウ)(エ)に関しては読解・記述ともに必要になります。「書くこと」の解説の中でより詳しく説明されていますので、そちらで述べたいと思います。
「(2)情報の扱い方に関する事項」
(2) 文章に含まれている情報の扱い方に関する次の事項を身に付けることができるよう
指導する。
ア 主張とその前提や反証など情報と情報との関係について理解を深めること。
イ 情報を重要度や抽象度などによって階層化して整理する方法について理解を深め使うこと。
ウ 推論の仕方について理解を深め使うこと。
(150・151ページ)
この項目は「書くこと」「読むこと」の項目で詳しく説明されています。論理的な文章には根拠としてデータが必要になります。そのデータの信憑性や正確さを考える必要があります。また、論旨を捉えた上で、自身の考えを形成する際に必要なデータについても適切かどうかを判断する力が必要になるということです。
事項(ウ)については、「書くこと」で自身の考えを書いたときに必要な力です。
「(3)我が国の言語文化に関する事項」
(3) 我が国の言語文化に関する次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 新たな考えの構築に資する読書の意義と効用について理解を深めること。
(153ページ)
読書については「現代の国語」「言語文化」のところでも説明しました。ここでも同じように登場します。
〔思考力,判断力,表現力等〕は「A 書くこと」「B 読むこと」から構成されています。
「A 書くこと」
(1) 書くことに関する次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 実社会や学術的な学習の基礎に関する事柄について,書き手の立場や論点などの様々な観点から情報を収集,整理して,目的や意図に応じた適切な題材を決めること。
イ 情報の妥当性や信頼性を吟味しながら,自分の立場や論点を明確にして,主張を支える適切な根拠をそろえること。
ウ 立場の異なる読み手を説得するために,批判的に読まれることを想定して,効果的な文章の構成や論理の展開を工夫すること。
エ 多面的・多角的な視点から自分の考えを見直したり,根拠や論拠の吟味を重ねたりして,主張を明確にすること。
オ 個々の文の表現の仕方や段落の構造を吟味するなど,文章全体の論理の明晰さを確かめ,自分の主張が的確に伝わる文章になるよう工夫すること。
カ 文章の構成や展開,表現の仕方などについて,自分の主張が的確に伝わるように書かれているかなどを吟味して,文章全体を整えたり,読み手からの助言などを踏まえて,自分の文章の特長や課題を捉え直したりすること。
(2) (1)に示す事項については,例えば,次のような言語活動を通して指導するものとする。
ア 特定の資料について,様々な観点から概要などをまとめる活動。
イ 設定した題材について,分析した内容を報告文などにまとめたり,仮説を立てて考察した内容を意見文などにまとめたりする活動。
ウ 社会的な話題について書かれた論説文やその関連資料を参考にして,自分の考えを短い論文にまとめ,批評し合う活動。
エ 設定した題材について多様な資料を集め,調べたことを整理して,様々な観点から自分の意見や考えを論述する活動。
(154ページ)
(下線は馬締によるもの)
「A 書くこと」の内容の下線を引いたところを順に追いかけてみると、論理的な文章を書く手順に沿っていることが分かります。このところは非常に参考になる部分です。また、(2)では言語活動の例が示されています。これらの活動にアクティブラーニングを取り入れることも可能であり、非常に実践的な内容となっています。
情報収集から始まり、主張をまとめ、文章の構成を整えていくという一連の流れがはっきりとしています。「(1)言葉の特徴や使い方に関する事項」(ウ)(エ)についても、この一連の流れの中で押さえておくと理解しやすいでしょう。
「B 読むこと」
(1) 読むことに関する次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 文章の種類を踏まえて,内容や構成,論理の展開などを的確に捉え,論点を明確にしながら要旨を把握すること。
イ 文章の種類を踏まえて,資料との関係を把握し,内容や構成を的確に捉えること。
ウ 主張を支える根拠や結論を導く論拠を批判的に検討し,文章や資料の妥当性や信頼性を吟味して内容を解釈すること。
エ 文章の構成や論理の展開,表現の仕方について,書き手の意図との関係において多面的・多角的な視点から評価すること。
オ 関連する文章や資料を基に,書き手の立場や目的を考えながら,内容の解釈を深めること。
カ 人間,社会,自然などについて,文章の内容や解釈を多様な論点や異なる価値観と結び付けて,新たな観点から自分の考えを深めること。
キ 設定した題材に関連する複数の文章や資料を基に,必要な情報を関係付けて自分の考えを広げたり深めたりすること。
(2) (1)に示す事項については,例えば,次のような言語活動を通して指導するものとする。
ア 論理的な文章や実用的な文章を読み,その内容や形式について,批評したり討論したりする活動。
イ 社会的な話題について書かれた論説文やその関連資料を読み,それらの内容を基に,自分の考えを論述したり討論したりする活動。
ウ 学術的な学習の基礎に関する事柄について書かれた短い論文を読み,自分の考えを論述したり発表したりする活動。
エ 同じ事柄について異なる論点をもつ複数の文章を読み比べ,それらを比較して論じたり批評したりする活動。
オ 関心をもった事柄について様々な資料を調べ,その成果を発表したり報告書や短い論文などにまとめたりする活動。
(164ページ)
(傍線はマジマナによるもの)
「B 読むこと」に関する内容を見ていくと、傍線部分が読解に関するポイントになると思います。入試で扱う現代文の読解は、筆者の主張や書いてある内容を的確に捉えることに中心が置かれています。
一方、今回の事項を読み解くと、(ア)(イ)(ウ)で基本的な読解を行った上で、(エ)以降が設定されていることが分かります。筆者の論点から自身の考えにシフトし、さらには情報から関連項目へと広げていくやり方です。
この項目の活動は「能動的な学習」が根底にあると言えます。読むことに関しては、授業で行い、それ以降については(2)で示された活動を取り入れつつ、生徒の主体性を刺激するという手順でしょう。
流れや活動例としては十分だと思いますが、ここまで主体性を持って行動できるかは、学力水準の高い学校でないと厳しいと思われます。
内容の取り扱い (3 教材について)
これまでの内容とは別に取り扱いの留意点についても書かれています。その中でも、この項目を取り上げます。
ア 内容の〔思考力,判断力,表現力等〕の「B読むこと」の教材は,近代以降の論理的な文章及び現代の社会生活に必要とされる実用的な文章とすること。また,必要に応じて,翻訳の文章や古典における論理的な文章などを用いることができること。
(175ページ)
基本的に「論理国語」では、実用的な文章とあるため、現代における実用的、論理的な文章を想定されやすいと思われます。しかし、よく読んでみると、「古典」も扱うことが出来るのです。解説では次のように述べられています。
古典における論理的な文章については,ここでは,例えば,古典における,歌論や俳論,芸術論,思想家による諸論などを指している。これらは,古典と近代以降の論理的な文章との差異を考えたり,書かれた時代における論理の在り方を知り,それらを比較・対照したりすることが,近代以降の我が国の文章に表れる論理の在り方の理解に資することを踏まえている。
(176ページ)
論理国語のメインは現代文であることは言うまでもありませんが、古典の中でも論理のあるものであれば、扱ってもよいということになります。古文では「歌論」は比較的多くの教材が見つかるでしょう。漢文は「思想家による諸論」が取り上げられます。故事成語に関わるものなどを「論理国語」で取り上げても良いことになります。
このように考えると、「論理国語」と「古典探究」の棲み分けが出来そうです。物語などのストーリー性の高い作品を「古典探究」で扱うとよいことになるでしょう。
さいごに
各項目に沿って以上のように見てきました。指導要領にはそれぞれの項目に詳しい説明が載っています。一読することをお勧めします。しかし、分かりづらいところ、現場の人間でなければ、体感して理解することができないところがあります。
論理国語に関しては、中水準以上の学校を想定しているように思われます。必履修科目ではないので、授業を受けるので精一杯というような学校では設定されないと考えているのでしょう。しかし、教員や教員志望の学生は知識として理解しておくことが大切です。書き切れないところはありますが、知識の一助となれば幸いです。
まとめ
①「書くこと」「読むこと」の項目が詳しく、能動的な学習を取り入れた活動が想定しやすい。
②近現代の文章だけでなく、古典的な文章の余地がある。
③一定水準以上の学校でなければ実施は難しそうである。