『古今著聞集』「刑部卿敦兼の北の方」
『古今著聞集』「刑部卿敦兼の北の方」
使用時期
高校1年生の教科書に載っている作品。説話集のまとまりの一つとして扱われます。
『古今著聞集』は橘成季によって編纂された作品です。約七百話あり、様々なジャンルまで広がります。
文法としては、助動詞が終了し、敬語の単元となっているが、そこまで行かないことが多く、助動詞の続きをメインにしながら、少し敬語を扱う程度。物語系を重視する場合、扱われないことが多いです。
本文
刑部卿敦兼は、みめのよに憎さげなる人なりけり。その北の方は、はなやかなる人なりけるが、五節を見はべりけるに、とりどりにはなやかなる人々のあるを見るにつけても、まづわが男のわろさ心憂くおぼえけり。家に帰りて、すべてものをだにも言はず、目をも見合はせず、うち側向きてあれば、しばしは、何事の出で来たるぞやと、心も得ず思ひゐたるに、しだいに厭ひまさりて、かたはらいたきほどなり。先々のやうに一所にもゐず、方を変へて住みはべりけり。
ある日、刑部卿出仕して、夜に入りて帰りたりけるに、出居に火をだにも灯さず、装束は脱ぎたれども、畳む人もなかりけり。女房どもも、みな御前の目引きに従ひて、さし出づる人もなかりければ、せん方なくて、車寄せの妻戸を押し開けて、ひとりながめゐたるに、更闌け、夜静かにて、月の光、風の音、ものごとに身にしみわたりて、人の恨めしさも取り添へておぼえけるままに、心を澄まして、篳篥を取り出でて、時の音に取り澄まして、
籬のうちなるしら菊も うつろふ見るこそあはれなれ
我らが通ひて見し人も かくしつつこそかれにしか
と、繰り返しうたひけるを、北の方聞きて、心はや直りにけり。それよりことに仲らひめでたくなりにけるとかや。優なる北の方の心なるべし。
現代語訳
刑部卿〔藤原〕敦兼は、容貌がひどく醜い人であった。その奥方は、派手で美しい人であったが、五節の舞を見ましたときに、さまざまに派手で美しい男性たちがいるのを見るにつけても、まず自分の夫の醜さが情けなく思われた。家に帰って、全く口さえもきかず、目を見合わせることもせず、つんとそっぽを向いているので、敦兼はしばらくの間は、何事が起こったのかと、わけがわからなく思っていたが、だんだんと妻は厭わしさが高まって、はたで見ていても気の毒なほどである。以前と同じように夫と同じ部屋にもいないで、部屋を変えて別々に住んでいました。
ある日、刑部卿〔敦兼〕が宮中に勤務に出て、夜になって帰って来たところ、出居の間に灯りさえも灯さず、装束は脱いだけれども、畳んでくれる人もいなかった。女房たちも、みな奥方の目くばせに従って、敦兼の前に出て来る人もいなかったので、敦兼はしかたなくて、車寄せの妻戸を押し開けて、一人でぼんやりともの思いにふけって外を見ていたが、夜が更け、静かな夜で、月の光や風の音が、一つ一つ身にしみわたって、妻の恨めしさも重ね合わせて思われた気持ちのままに、心を研ぎ澄まして、篳篥を取り出して、時季にふさわしい調子に澄んだ音色で吹いて、
籬のうちなる……籬垣のうちに咲く白菊も、色あせるのを見るのは、つらく胸にしみることだよ。
私のような者が通って結ばれたあの人も、花の色が変わるように心変わりして、花が枯れるように離れてしまったことよ。
と、繰り返し朗詠したのを、奥方が聞いて、(夫を厭う)心があっという間に直ってしまった。それ以来格別に夫婦仲が円満になったとかいうことである。風流を解する、優雅な奥方の心であろう。
『古今著聞集』定期テスト対策
『古今著聞集』「刑部卿敦兼の北の方」の定期テスト対策問題を作りました。
文法編と読解編に分かれています。テスト対策に使ってみてください。
文法問題
助動詞をメインに作成しました。意味と活用形です。最もシンプルな形ですので、定期テストでも問われやすいかと思います。また、敬語の問題を1問入れました。まだ学習していないかもしれませんが、簡単な問題なので、挑戦してみるとよいでしょう。
読解問題
様々な知識を問うことができるように満遍なく配置してみました。学校の授業を受けていないと解けない問題を入れないようにしていますので、定期テスト以外の人でも活用できる問題になっています。
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