『伊曽保物語』「鳩と蟻のこと」

『伊曽保物語』「鳩と蟻のこと」

 

古典の入門作品として登場する話です。それでは見ていきましょう。

 

使用時期

この話は比較的易しい教科書の最初の方に位置づけられています。そのため、本格的な文法を学ぶというよりも、音読の仕方を学んだり、古典の入門として味わったりすることに使われています。

 

細かい文法事項に関しては、ある程度勉強を終えてから振り返れば良いので、まずは慣れることを中心に取り組んでみましょう。

 

 

本文

 

 ある河のほとりに、蟻遊ぶことありけり。にはかに水かさまさりきて、かの蟻をさそひ流る。浮きぬ沈みぬするところに、鳩、梢よりこれを見て、「あはれなるありさまかな。」と、梢をちと食ひ切つて、河の中に落としければ、蟻これに乗つて渚に上がりぬ。かかりけるところに、ある人、竿の先にとりもちをつけて、かの鳩を刺さむとす。蟻、心に思ふやう、「ただ今の恩を送らうものを。」と思ひ、かの人の足にしつかと食ひつきければ、おびえあがつて、竿をかしこに投げ捨てけり。そのものの色や知る。しかるに、鳩これを悟りて、いづくともなく飛び去りぬ。

 



現代語訳

 

 ある河のほとりで、蟻が遊んでいた。急に水量が増えてきて、この蟻をさらって流れる。蟻が浮いたり沈んだりするうちに、鳩が、木の枝先からこの様子を見て、「気の毒な様子だなあ。」と、枝先を少し食いちぎって、河の中に落としたので、蟻はこの枝に乗って河岸に上がった。こうしたところに、ある人が、竿の先にとりもちをつけて、この鳩を捕らえようとする。蟻が、心に思うことには、「ついさきほどの恩を返したいものだ。」と思い、その人の足に強くかみついたので、その人はひどく恐れて、竿をその場に投げ捨てた。その人はこのいきさつを知っただろうか、いや、知りはしまい。しかし、鳩はこの事情を悟って、どこへともなく飛び去っていった。

 

作品について

仮名草子の一つ。現在では「イソップ物語」としてよく知られています。

はっきりとした時期はわかりませんが、16世紀には日本にやってきて翻訳されていたことがわかっています。

寓話を用いた教訓譚が多く、知識のない一般大衆や子どもでも親しめる話が載っています。

 



リンク集

「コトバンク」

 

「天草版伊曽保物語」(国立国語研究所)

 

「イソップ寓話」(Wikipedia)

 

その他、YouTubeで検索をかけると出てきます。

 

 

 

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