『仮名草子』「一休ばなし」
『仮名草子』「一休ばなし」
目次
使用時期
比較的易しい教科書の序盤に位置づけられています。古典を習い始めた頃に扱われることが多いでしょう。
「一休さん」というなじみのあるキャラクターが登場しますので、古文のハードルが幾分低く感じられると思います。
しかし、話の内容として「オチ」を理解しないといけませんので、古文に親しむことに加えて「理解する」力が求められます。
ちなみに、高校受験の入試問題としても扱われたことがある話で、初学者でも内容を自力で読み解ける可能性が高い話です。
本文
一休和尚は、いとけなきときより常の人には変はりたまひて、利根発明なりけるとかや。師の坊をば養叟和尚と申しけり。こびたる檀那ありて、常に来たりて和尚に参学などしはべりては、一休の発明なるを心地よく思ひて、折々はたはぶれを言ひて、問答などしけり。
あるとき、かの檀那、皮袴を着て来たりけるを、一休、門外にてちらと見、内へ走り入りて、へぎに書きつけ、立てられけるは、
この寺の内へ、皮のたぐひ、固く禁制なり。もし皮のもの入るときは、その身に必ずばち当たるべし。
と書きておかれけり。
かの檀那これを見て、「皮のたぐひにばち当たるならば、このお寺の太鼓は何としたまふぞ。」と申しけり。
一休聞きたまひ、「さればとよ、夜昼三度づつばち当たるあひだ、その方へも太鼓のばちを当て申さむ。皮の袴着られけるほどに。」とおどけられけり。
現代語訳
一休和尚は、幼いときから普通の人とは異なっていらっしゃって、賢くて聡明であったとかいうことである。師匠の僧侶は養叟和尚と申し上げた。ひいきにしている檀那がいて、いつもやって来て和尚に仏教を学ぶことなどをしましては、一休が聡明であることを気持ちよく思って、ときどきは一休に冗談を言って、問答などをしていた。
あるとき、その檀那が、動物の皮で作った袴を着てやって来たのを、一休は、門の外でちらっと見て、中へ走り込んで、へぎ板に書きつけ、お立てになった内容は、
この寺の中へ、皮の類(が入ることは)、固く禁止である。もし皮のものが入るときは、その身に必ずばちが当たるだろう。
と書いておかれた。
その檀那はこれを見て、「皮の類にばちが当たるのであったら、このお寺の皮で作った太鼓はどうなさるのか。」と申し上げた。
一休はお聞きになり、「だからですよ、夜と昼に三度ずつばちが当たるので、あなたへも太鼓のばちをお当て申し上げよう。皮の袴を着ていらっしゃったので。」とおふざけになった。
補足説明「ばち」
今回のこの文章は、「現代語訳を読んだだけでは理解が難しい」という人もいると思うので補足説明をします。
一休さんがへぎ板(簡易な立て看板)に書いた文章にでてくる「ばち」が掛詞になっています。
最初にへぎ板を見た檀那は「罰が当たる」という意味で解釈しました。もちろん、檀那は一休さんのおふざけであることには気づいたと思います。そこで一休さんを逆にぎゃふんと言わせてやろうと思って気づいたのが「太鼓」です。
太鼓は叩く面が「(動物の)皮」でできています。お寺には太鼓がありますので、「皮」が寺の中に入っていることに気づいたわけです。
そこで、檀那は「太鼓に罰を当てることなんてできないだろう」と言ったわけです。
ところが、一休さんはその上をいく返答をしてきたのです。
「太鼓は昼と夜に三回ずつ(撥)が当たっています!」と。
そうです。この「撥」は太鼓を叩く棒のことですね。だから、檀那さんにも太鼓の撥で叩いて差し上げようというおふざけです。
ばち(「罰」「撥」)のお遊びということでした。
この話について
この話は比較的読みやすい話であること、日本昔話でも取り上げられていたことから、中学生向けの問題になっていることもあります。
しかしながら、この話のなかには当時の文化背景を知らないとよく理解出来ない部分が出てきます。
それは「皮」がお寺の中に入ってはいけないということです。この内容に檀那が疑問を抱かずに、一休さんとのやりとりを楽しんでいるのは、当時の文化背景に「お寺の中に皮が入ってはいけない」ということに違和感がなかったというものがあったからです。
というのも、「血」は穢れ(けがれ)であり、一般の人からも避けられるものでしたが、お寺は「殺生禁断」の観点から特に避ける傾向にありました。そのため、「動物の皮」でできたものは、その血と関係を切ることができないので、避けられていたということです。
しかし、山の中を移動するときは、動物の毛皮を身にまとって危険を回避したことが知られているので、完全に排除されていたわけではなさそうです。
そのため、この檀那もおしゃれ着というよりは、動物避けだったのではないかと思います。
『仮名草子』「一休ばなし」定期テスト対策
『仮名草子』「一休ばなし」の定期テスト問題を作りました。
高校生になって始めの方に習う教材ですので、それほど突っ込んだ内容を問うことが難しいかと思います。
今回は初歩的な文法の知識と読解問題にしておきました。
文法問題
今回は文法の教科書の初期に習う、品詞名と単語に句切る問題にしてみました。
あまり意味がないといって、流してしまう先生がいますが、単語単位に区切る感覚は身に付けておかないと自分で調べることができなくなってしまいます。
品詞に関しては日頃から意識する習慣がつけば、できるようになりますので、意識付けを大切にしてください。
読解問題
話の流れがわかっているかを試す問題を作りました。
一部記述を入れてみましたので、初見で取り組む場合はよい練習になると思います。
リンク集
思ったよりも説明が少ないですが、まずは情報を確認してみてください。
圧倒的に説明量はこちらの方が多いです。むしろ多すぎて読むのに苦労するかもしれません。高校生向けというよりは大人向けかもしれません。
サンプルページですが、新編日本古典文学全集の「一休ばなし」を少しだけ見ることができます。現代語訳がついているので、読みやすいですよ。
YouTube
特定の動画をあげることはできませんが、「一休ばなし」で検索するといろいろと出てきますよ。
“『仮名草子』「一休ばなし」” に対して1件のコメントがあります。
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