『宇治拾遺物語』「小野篁、広才の事」
『宇治拾遺物語』「小野篁、広才の事」
使用時期
1年生の教材としても、2年生の教材としても扱えます。1年生の場合は後半に、2年生の場合は前半にもってくるとよいでしょう。
内容を理解するためには、少し理解力が必要です。「子」をどのように読むのかがキーポイントになってくるので、頭の柔らかさが必要となるでしょう。
文法は敬語が多く使用されているので、敬語の学習と並行するとよいでしょう。教材選定の自由度が高ければ、3年生前半に持ってきて、文法の復習問題を兼ねて取り上げることもできます。
本文
今は昔、小野篁といふ人おはしけり。嵯峨の帝の御時に、内裏に札をたてたりけるに、「無悪善」と書きたりけり。帝、篁に「読め」と仰せられたりければ、「読みは読み候ひなん。されど恐れにて候へば、え申し候はじ」と奏しければ、「ただ申せ」とたびたび仰せられければ、「さがなくてよからんと申して候ふぞ。されば君を呪ひ参らせて候ふなり」と申しければ、「おのれ放ちては、誰か書かん」と仰せられければ、「さればこそ、申し候はじとは申して候ひつれ」と申すに、帝「さてなにも書きたらん物は、読みてんや」と仰せられければ、 「何にても読み候ひなん」と申しければ、片仮字の子文字を、十二書かせ給ひて、「読め」と仰せられければ、ねこの子の子ねこ、ししの子の子じし」と読みたりければ、帝微笑ませ給ひて、事なくてやみにけり。
現代語訳
今は昔のこと、小野篁という人がいらっしゃった。嵯峨天皇の御時に、内裏に札を立てかけた者がいたが、それには「無悪善」と書いてあった。帝は篁に「読め」と仰せになったので、「読むことは読みましょう。ですが、恐れ多いことですので、読めません」と申し上げると「いいから読め」と何度も仰るので、「『さがなくてよからん』と書いてあります。きっと帝を呪う者の仕業でしょう」と申し上げると「こんなことを書くのは、おまえ以外の誰がいるか。」と仰せられたので、「だからこそ、『申し上げません』と申したのです。」と申し上げると、帝は「では、書いてあるものは何でも読めるな」と仰せられたので、「何でも読みましょう」と言えば、子という字を、十二個お書きになって、「読め」と仰せられたので「猫の子の子ねこ、獅子の子の子獅子」と読んだところ、帝はにっこり微笑なさって、何のおとがめもなく終わった。
小野篁伝承
小野篁(おののたかむら)は平安初期を生きた人物です。公卿、文人です。
彼は元々、学問に精通していたわけではありませんが、嵯峨天皇に嘆かれたことによって改心し、文人となったようです。彼の経歴はWikipediaを見ると詳しく書いてありますので、人物像に関してはそちらにお任せしましょう。
彼の伝承として有名なものに、冥府において「閻魔大王」に仕えていたという話です。裁判の補佐をしていたという伝承が『江談抄』『今昔物語集』『元亨釈書』に見られます。『今昔物語集』では地獄に落ちた人物を救う話が残されています。
地獄と現実を行き来できる人物としては、「地蔵菩薩」がいらっしゃいますが、人間としては小野篁が代表格でしょう。
ちなみに、京都東山の六道珍皇寺(ろくどうちんのうじ)には、彼が地獄と行き来するのに使った井戸があると言われています。実際に見に行ってみると、普通の井戸に見えますが、このような伝承が生まれる何かが当時あったと思うと、ワクワクします。
このような伝承があるので、小野篁をモチーフにした作品が結構あるようですね。
みなさんも、これを機に小野篁に親しんでみて下さいね。
リンク集
役立ちそうなサイトを見つけ次第はっていきます。
『宇治拾遺物語』ついての情報を手に入れたい人向け
動画があるので、読むだけでは辛い人向け
このサイトすごいです。原文と現代語訳が見られるので、教科書と違う範囲を扱う授業にも対応できます。
初学者向けの文庫本です。ソフィアシリーズは読んでおくと古文に強くなります。
小野篁は地獄にも出入りしていたようですよ。
結構情報が充実していますね。