塾の間違った高校入試の国語指導
塾の間違った高校入試の国語指導
高校入試の採点業務に携わってきた中で、感じたことがあります。
それは、塾で間違った指導がなされているなということです。
間違った指導の内容を確かめてみましょう。
※この記事は2023年1月6日にリライトしました。
※非常に長い記事になっています。ご了承ください。
目次
①漢字の書き取り問題に関する間違った指導
高校国語の入試問題は、漢字問題、記号問題、抜き出し問題、作文(小論文)と幅広く出題されることが多いです。その全てを複数人で採点をします。全ての設問において、正解不正解だけでなく、書かれている字についてもチェックします。
そのため、次のような間違った指導をされている答案を見かけることがよくあります。
漢字は書き取り問題だけを丁寧に書け!
この指導をされている答案は、漢字問題の字は丁寧に書いてあるのに、他の字は雑に書いていることから分かります。基本的に字が雑な生徒に対して、仕方がなく指導している可能性もありますが、これは点数を落としてしまう原因になります。
というのも、漢字の書き取り問題の採点に関しては、許容範囲が広く正解になることが多いからです。(自治体によって異なる可能性はありますが、近年は以前よりも緩くなってきています)
書き取り問題では、字を綺麗に書けていないからといって減点をすることはありません。減点対象となるのは、画数の間違いや偏と旁が逆になっているような明らかなミスです。漢字検定の採点要領をベースにしている場合、ある程度許容される範囲があります。その範囲を超える間違いは減点されます。
私が経験した採点業務では、点や線の数があっていれば、向きなどは問わないという指示が降りてきました。例えば「杉」の旁が逆の斜めになっても正解とすることになったのです。
ただし、これは「書き取り問題」に関する注意事項で、それ以外の問題は対象外でした。よって、書き取り問題以外の抜き出し問題や記述問題における誤字は以前と同じように厳しく減点されていました。
つまり、
書き取り問題以外の字が読めないと減点される。
ということでした。そのため、書き取りだけ丁寧に書く戦法は大きく失点する原因となっていました。
②抜き出し問題に関する間違った指導
抜き出し問題の正解は基本的に1つに定まることが多いです。しかし、細かな採点基準は各学校によって設定されるので、減点基準が変わってきます。目安としては、学力が高い学校ほど、少しのミスも許されないというイメージです。
次のような指導には間違った指導になります。
抜き出し問題は、抜き出す場所さえあっていればよい!
採点していると出てくるのが、場所は合っているけれど、字を間違えて抜き出しているものです。見間違いの場合もありますが、そもそも漢字を勘違いして覚えているようで、他のところでも同じように間違えて書いているものがあります。
これは倍率が高い学校では、どんどん減点されていきます。抜き出す場所だけでなく、きちんと字を見るように指導した方がよいでしょう。
さらにもう一つあります。
抜き出すところが含まれているけれど、余計なものが入っている場合です。
抜き出し問題は基本的に過不足なく抜き出す必要があります。余計なものや不足しているものは○にはなりません。抜き出し問題は完答であることが多いので、大きく失点してしまうでしょう。
つまり、「場所さえあっていればよい」という指導では、得点につながっていない可能性が大いにあります。字をきちんと写すこと、過不足なく抜き出すことを指導した方がよいでしょう。
③字に関する間違った指導
高校生を相手にしていてもなかなか苦戦するので、中学生を相手にしている先生も苦戦していることが想像されますが、「くせ字」には気をつけてください。
くせ字が強い人の採点は一苦労です。何を書こうとしたのかを理解しようとしますが、複数に読み取れる字はアウトにすることが基本です。「せ」「セ」「七」など、全て同じ場合があります。「く」「し」「ん」が同じ人もいます。
漢字に注意を払う人が多いですが、意外とひらがなで減点されている人もいます。思ったよりも点数が低かった場合、ひらがなの減点を疑うといいでしょう。
減点方法は大きく二つです。同じ問題において、1種類1点減を取る場合と、1つ1点減を取る場合があります。前者は同じ字の間違いは1点減で済みますが、後者では間違った個数分の減点が入りますので気をつけましょう。
④記述問題に関する間違った指導
記述問題では、部分点を与えるためにキーワードを中心に採点することが多いです。これは通常の問題集でも同じことが言えます。
そこで次のような指導がされていることがあるようです。
記述問題はキーワードを使って、とにかく文をつなげ!
キーワード採点ということから部分点狙いだとは思いますが、へんてこな内容の文章になっていると点数はもらえません。また、設問で問われている内容が、筆者の肯定的意見について聞かれているものに対して、否定的な意見に読み取られる解答になってしまうとキーワードがあっても×になります。
また、不必要な言葉に関しても注意しなければなりません。不必要な言葉が解答に影響しないものであれば、減点はありません。しかし、解答に影響を与えて、本来の表現とは違う意味になってしまった場合は、減点されるか、文意不明で×になってしまいます。
やみくもにキーワードだけに特化させるのは得策とはいえないでしょう。
⑤作文(小論文)に関する間違った指導
作文(小論文)の採点も複数人で行います。採点項目を決めて点数を付けていき、採点者の平均点を得点とするところもあります。よって、採点者の気分や好みによって点数が付くものではありません。
以上の前提を踏まえた上で、よくある間違った指導を確認します。
とにかく字数を埋めればよい!
入学してきた生徒に聞くと、このような指導をされていたという報告が非常に多いです。とにかく書いているけれど、内容が条件に合っていなかったり、設問と関係がなかったり・・・ということが多いのです。
何も書かないよりは、少しでも点数になればよいという考えはよく分かります。普段から何も書けないのであれば、その指導もありでしょう。しかし、もう少し考えて書けば点数につながりそうなのに、下手に埋めてしまったがために0点になる答案も多いのです。
採点時は、なるべく内容を汲み取ろうとしますが、採点者全員が読み取れない、もしくは、多くの言葉を補わないと意味が通らないものには点数を与えられません。特に、途中までは意味が分かったのに、最後まで書くために無理矢理書いてしまったことで意味が分からなくなってしまうと点数がなくなってしまいます。
とにかく書けば良いという指導は間違いです。
自分の思いを書け!
これは作文のお題によって異なります。あなたの思いを書きなさいという内容であれば正解ですが、「あなたの考えを書きなさい」の場合、「思い」ではなく「考え」を書かないといけません。
「思い」はどう思っても自由です。論理的に矛盾していたとしても、本人の解釈で十分なのです。
しかし、「考え」を書く場合は、どういう根拠があって、そのように考えていったのかを書く必要があります。
特にひどいのは、思い込みの上に立って書かれた考えです。例えば「世の中の中学生には読書が好きな人がいないので」というような書き方です。根拠もなく言い切るのはやめましょう。
入学後のアピールを書け!
作文の採点をしていると、途中まではお題や条件に合ったよい文章だったのにも関わらず、急に高校入学後の話を書き始める作文があります。
お題や条件に高校入学後の話を書くように指示されていればよいのですが、全く関係ない文脈で書かれていました。
毎年一定数いますので、入学した生徒に聞いてみると、塾で言われたと言っていました。
作文や小論文は問題であって、志望理由書やアピール文ではありません。表記や内容と関係がないので、加点されることはほとんどないでしょう。
その上、最後の締めくくりで書いてしまいますと、作文全体の話が問題の趣旨と関係なくなってしまいます。あまりにもかけ離れてしまっていると、作文が意味をなさなくなってしまい、大きく減点される可能性が高いです。
これはやめておいた方が得策です。
とにかく自分の体験を書け!
文章を書くとき、具体例に自身の体験や経験を用いることはよくあります。内容と合っている場合は正しい書き方です。
しかし、自身の体験や経験が正しくなる場合を指導せずに、次のように指導している場合があるようです。
とにかく自分の体験を書いておけばよい!
お題や条件に合っていて、なおかつ文脈にも適応していれば○ですが、自身の例では当てはまらないことも生じます。そのときは、一般的な例を考える必要があります。このことを抜きにして、とにかく自分自身の体験を押してしまうと、根拠が破綻してしまいます。
例えば、最も多い根拠が不明になってしまう最も多い表現に、「私がそうであったように」という書き方です。「私」個人が経験したことは、普遍的というよりは「特殊」に当てはまるので、世間一般と同じと論じるのは難しいです。
また、グラフが関わる問題でも、データ上、「肯定が7割、否定が3割」だったとします。しかし、本人はその内容に否定の立場であることから、「否定的な意見が多いので」と書いてしまうことが生じます。
自分の体験や経験が使えるときもありますが、それだけに特化してしまうのは危険であると言えるでしょう。
原稿用紙のルールは間違っても減点されない!
これは都市伝説かと思ったものです。もしかしたら、当時の勤務校周辺の塾だけの指導かもしれません。
原稿用紙のルールは間違っても減点されない!
そんなことありません。ある程度の学力のある学校だと、間違いなく減点されます。大学に進学する生徒が多い学校だと、大学入試でも原稿用紙は絡んできますので、使い方をしっかりと理解できているかは意識しています。
よくあるルール間違いとしては、
一番上のマスに「、」や「。」がある
段落構成がない(1段落で書かれている)
「 」の使い方が違う
1文ごとに改行されている
なぞの空白行がある
1マスに2文字書いている(特に最後のマス)
これらは減点対象になります。学校の採点基準によりますが、表記点や構成点で減点が入ると思います。
ちなみに、この中で一番危険なミスはどれだかわかりますか?
そうです。最後の「1マスに2文字書いている」です。学校の判断によりますが、これを2文字とカウントすると、字数オーバーとなります。字数不足や字数オーバーは0点という基準にしていた場合、即アウトとなりますので、最も危険なミスとなります。
読点(、)は使わなくてよい!
これは一部の生徒が言われたと聞きました。字数稼ぎのために読点をたくさん打つ生徒に対して指導したものなので、一般的ではないかもしれません。
読点に関しては、日本語の記述では、読みやすいように適宜つけるというルールのため、絶対にココにないといけないとは言えません。しかしながら、数行にわたり、「、」がない状態では、採点者が正しく読むことは出来ません。また、複数の意味に取れる文は誤読が生じるので、減点します。
有名な例文で確かめてみましょう。
とある温泉に行きました。温泉の入り口に次のように書かれていました。
ここではきものをぬいでください
さて、あなたはどのように行動を取りますか?
恥ずかしくてそんなことできない!と思う人と、え?簡単だよねってことですぐに出来る人に分かれるでしょう。次のように読み取れます。
A ここでは、きものをぬいでください
B ここで、はきものをぬいでください
Aは「着物」なので、裸にならないといけません。Bは「はきもの」なので、くつを脱げば良いということになります。
読点(、)のあるなしで文脈が変わってしまいます。日本語は言葉がどこに掛かっているかをきちんと分かるように書かないといけません。そのため、読点の使い方は大切です。
まとめ
いかがでしたか?今回の内容の項目をもう一度振り返ってみましょう。
①漢字の書き取り問題に関する間違った指導
②抜き出し問題に関する間違った指導
③字に関する間違った指導
④記述問題に関する間違った指導
⑤作文(小論文)に関する間違った指導
・とにかく字数を埋めればよい!
・自分の思いを書け!
・入学後のアピールを書け!
・とにかく自分の体験を書け!
・原稿用紙のルールは間違っても減点されない!
・読点(、)は使わなくてよい!
各地域、各学校によって採点基準が異なるので、全てにおいて当てはまるとはいえませんが、上記の指導をすることで減点される可能性が大きいと言えます。
そんな指導をしているところがあるの!?と驚かれた方も多いかもしれません。このような指導を受けた生徒は、大手の学習塾で学生講師が多いところに通っていた人がほとんどでした。大手塾がダメというよりは、そのときの学生講師の勘違いや思いつきによるところが大きいかと思います。
間違った指導が代々引き継がれてしまうと、ずっと減点され続けることになりますので、指導方法の見直しは定期的に行っておいた方がよいでしょう。
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