『宇治拾遺物語』「絵仏師良秀」
『宇治拾遺物語』「絵仏師良秀」
古文の定番の『宇治拾遺物語』「絵仏師良秀」です。
使用時期
この教材は「児のそら寝」とセットで実施されることが多いです。古文文法の基本的なことが終わり、用言に入っていく時期でしょう。そのため、「動詞」を拾っていくことが多いです。そのため、「読み」と「動詞」を取り上げられるでしょう。
また、簡単な助動詞について触れる場合もあります。「けり」が過去であることなどは簡単なので知っておいて損は無いでしょう。
この教材は非常にインパクトのある内容になっています。良秀の芸術(仕事?)に対する情熱は常軌を逸するものがあります。そういう人物の描き方を読み取り、物事の考え方を知るきっかけとなります。
また、この作品は芥川龍之介が後に、この作品をモチーフにして作品を作っています。その作品と比較して読み解くなど、応用範囲が広いのも特徴的です。
派生的に、「芋粥」などの話に触れていくことも出来ます。応用的に使いやすいので面白い作品と言えるでしょう。
本文
これも今は昔、絵仏師良秀といふありけり。家の隣より火出で来て、風おしおほひてせめければ、逃げ出でて、大路へ出でにけり。人の書かする仏もおはしけり。また、衣着ぬ妻子なども、さながら内にありけり。それも知らず、ただ逃げ出でたるをことにして、向かひのつらに立てり。
見れば、すでにわが家に移りて、煙・炎くゆりけるまで、おほかた、向かひのつらに立ちて、眺めければ、「あさましきこと。」とて、人ども来とぶらひけれど、さわがず。「いかに。」と人言ひければ、向かひに立ちて、家の焼くるを見て、うちうなづきて、時々笑ひけり。「あはれ、しつるせうとくかな。年ごろはわろく書きけるものかな。」と言ふときに、とぶらひに来たる者ども、「こはいかに、かくては立ちたまへるぞ。あさましきことかな。もののつきたまへるか。」と言ひければ、「なんでふもののつくべきぞ。年ごろ、不動尊の火炎をあしく書きけるなり。今見れば、かうこそ燃えけれと、心得つるなり。これこそせうとくよ。この道を立てて世にあらむには、仏だによく書きたてまつらば、百千の家も出で来なむ。わたうたちこそ、させる能もおはせねば、ものをも惜しみたまへ。」と言ひて、あざ笑ひてこそ立てりけれ。
そののちにや、良秀がよぢり不動とて、今に人々めで合へり。
現代語訳
これも今となっては昔のこと、絵仏師良秀という者がいたそうだ。家の隣から火災が発生して、風が覆いかぶさるように吹いて、火が迫ってきたので、(良秀は)逃げ出して、大通りに出てしまった。人が良秀に描かせている仏も家の中にいらっしゃった。また、着物も着ない妻や子供なども、そのまま家の中にいた。良秀はそんなことも構わずに、ただ逃げ出したのをよいことに、大通りの向こう側に立っていた。
見ると、火はすでにわが家に燃え移って、煙や炎がくすぶり出したころまで、良秀はほとんど向かい側に立って、眺めていたところ、「大変なことだ。」と言って、人々が見舞いに来たが、良秀は慌てない。「どうしたのですか。」と人が言ったところ、良秀は向かいに立って、家が焼けるのを見て、しきりにうなずいて、時々笑った。「ああ、大変なもうけものをしたことよ。長年の間、絵をよくなく描いてきたものだなあ。」と言うときに、見舞いに来ていた者たちが、「これはまたどうして、こうして立っておいでなのか。あきれたことだなあ。怪しげな霊がとりつきなさったか。」と言ったところ、「どうして怪しげな霊がとりつくはずがあろうか。長年の間、不動明王の火炎を下手に描いてきたことだなあ。今見ると、火はこのようにこそ燃えるものだったよと、悟ったのだ。これこそもうけものよ。仏画を描くことを専門として世間を渡る(=生きていく)からには、仏だけでも上手に描き申し上げたら、百や千の家だってきっとできるだろう。おまえさんたちこそ、これといった才能もお持ちでないから、ものを惜しんだりなさるのだ。」と言って、あざ笑って立っていた。
そののちであろうか、良秀のよじり不動といって、今に至るまで人々が称賛し合っている。
問題集
「絵仏師良秀」の問題を作成しました。
問題は二種類作っています。知識問題(主に文法)と読解問題です。
知識問題
文法問題は用言を中心に作っています。「児のそら寝」とパターンは同じです。単語の知識、用言の識別問題と活用表です。全ての用言ではなく、ピックアップしていますので、基本的な練習問題ですので、難易度は易しめです。
02a絵仏師良秀文法 (PDFファイル)
読解問題
読解問題はよく聞かれるポイントに絞って出題しました。内容がショッキングなため、見落としがちなポイントがありますので、注意しましょう。問題量も少なめなので、確認用に使用してください。
02b絵仏師良秀読解 (PDFファイル)
スーパーリスニング
スーパーリスニングとは何かについてはこちらの記事をご覧ください。
手元資料をご用意ください。A4サイズで作成しています。
記入上の注意は「児のそら寝」と同じです。
それでは挑戦してみてください。
聞き取れましたか?本来なら全ての用言を拾いたいところですが、長くなりすぎるので、ピックアップしています。
※注意※
「ず」の上だから、「未然形」というような形が出てきます。用言の活用形は、下にある「語」によって決まることが多いです。全ての文法を習っていないと分からない項目ですが、後でまとめて覚えるよりも、先にいくつか慣れておいた方が覚えやすいので、これを機に覚えてみてください。
リンク集
『地獄変』(青空文庫、DLページ)(絵仏師良秀を下敷きに作られた)
https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card60.html
『芋粥』(青空文庫、DLページ)(古典を下敷きにした作品)
https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card55.html
『鼻』(青空文庫、DLページ)(古典を下敷きにした作品)
https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/card42.html
『宇治拾遺物語』ついての情報を手に入れたい人向け
このサイトすごいです。原文と現代語訳が見られるので、教科書と違う範囲を扱う授業にも対応できます。
初学者向けの文庫本です。ソフィアシリーズは読んでおくと古文に強くなります。
“『宇治拾遺物語』「絵仏師良秀」” に対して2件のコメントがあります。
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