覚えることと理解すること②
覚えることと理解すること②

先生、前回は覚えることについて詳しく聞いたので、次は理解することを教えてください。

そうですね。前回「覚えることと理解すること①」をまだ読んでいない方はそちらからお読みください。

定期テストを作る際の意識についても教えてくれましたよね。覚えることはサービス問題だと思って出題されていることが分かりました。

では、理解することを出す場合はどうするのか、そのあたりのこともお話ししていきましょう。

お願いします。
理解すべき事柄とは?
覚えることは単語の意味や文法の用語などを指します。基本的に「そうあるものとして通用していること」は覚えることです。(もちろん、そういうところに疑問を持って研究するのには意義があります。が、それは大学に受かってからにしましょう)
理解すべき事柄とは、文章を読んでいく中で文法をどのように当てはめて使うのか、文と文の関係から、どういう意味を生み出しているのか、などの有機的なつながりです。
知識は単独では、ただの事実です。それ以外の何者でもありません。しかし、複数集まり、文法的なつながりを持って形成されたとき、新たな意味を生み出します。その意味を生み出した過程をしっかりと理解して欲しいのです。
理解することが出来れば、そのつながりは「知識」へと変わります。そのことを覚えておくと、次に出てきた時、当てはめて使うことができるのでしっかりと覚えておいてください。しかし、つながりを覚えずに、「知識」化した結果だけを覚えてしまうと、応用が利かなくなるので意味がありません。

有機的なつながり・・・少し難しいですね。もう少し具体的に説明が欲しいです。
理解してから覚えよう
さて、先ほどの項目は抽象的に書きましたので、少し想像がしにくいですね。文章を引用すると長くなるので、よくある「理解して暗記」と「ただの丸暗記」の違いを説明してみましょう。
次の有名な古文のフレーズを使いたいと思います。
「男もすなる日記といふものを、女の私もしてみむとてするなり」(『土佐日記』冒頭)
この一文は是非とも覚えておいて欲しいところです。さて、これを見て、「あー暗記した!」ってだけの人や「男もすると言う日記というものを、女の私もしてみようと思ってするのだ」って意味だよねって訳し方だけを覚えている人を「丸暗記の人」と呼びます。
さて、このフレーズにはたくさんの重要なポイントが潜んでいます。
①伝聞推定の「なり」と断定の「なり」の助動詞の識別
②助動詞「む」の接続と意味「意志」のパターン
③女性仮託の形式を取った理由の考察
さて、これらのことを言われて分かるでしょうか?私がこのフレーズを覚えるように言うのは、これだけの情報が含まれているからです。分からない人は調べてみましょう。古典文法の教科書を見れば、どちらかの「なり」でこの一文が挙がっているでしょう。
これを覚えておくと助動詞の識別を思い出せるキーフレーズになるわけですね。そして、③は本文の理解において必要なことです。『土佐日記』の作者は「紀貫之」です。紀貫之は男です。その彼がなぜ女性のふりをして書いたのかを考えてみると、時代背景が見えてくるのです。そのことも覚えることができる素晴らしい一文なのです。
ということで、一つのことを丸暗記して、例文だけを覚えていても仕方が無いのです。そこに含まれる情報を理解して覚えないと意味がありません。ところが、最近、なぜその一文を覚えるのかを理解していない人が増えています。国語の教員というのは、ひとくくりで採用されているので、現代文が専門で、古文・漢文が苦手だという教師もいます。そういう人の場合、なぜ覚えるのか理由を分からず覚えさせる場合があります。内容が伴わない暗記は気をつけるようにしてください。

たった一文にそれだけの意味があるんですね。先生はたまに「例文暗記」って言葉を使いますが、もしかして、例文を覚えているだけじゃなくて、+αを覚えているんですか?
さいごに
さて、今回は理解すべき事項について書きました。国語を中心に書きましたので、各教科それぞれに理解すべきポイントがあるでしょう。
最後に林太郎君が質問している「例文暗記」ですが、私は意味のある例文を覚えています。意味の無い例文は覚えるだけ時間の無駄だと思っています。古文も英語も例文暗記をしています。それは文法的に意味があったり、表現上の注意があったりするものです。
ちなみに、文法事項がある文章を覚えておくと応用が利くので便利ですよ。文法の例文は着眼点込みで覚えておくと実際の問題を解く時に使えます。ただの知識部分だけを覚えるよりも文の方が覚えやすかったのでそうしました。
あとは、教えているうちに覚えてしまった例文もあります。それだけ、よく使う文ということでしょう。そういう文は惜しみなく教えます。しかし、何もしなくて思い出せるものではなく、そういえばこれって前も見たなが積み重なるものなので、授業時に、「これはよく見るよ」って伝えます。
分かっている子は、それがテストにも出やすいということが分かってくれるでしょう。それでもテストに出やすいって分からない人は、人の話を聞いて、どういう意味があるかを理解する技術を磨きましょうね。